作品作りについてのコラム、生活の中に見られる装飾性や 装飾観についてなども。

◆◆◆色の記憶◆◆◆

色って他のものよりも記憶にとどめておくのがむずかしい。私は昔から絵を描いているので「かたち」はわりと覚えられるほう。動く鳥をデッサンしたり、人物をデッサンしたりの訓練をしたというのもあるけれど、元々「視覚記憶」系の頭のようだ。覚えたいことは字や図にすると頭に入りやすい。

でも色はどうも覚えられない。例えば家のTV台の角が欠けて、それをカバーするための塗料を買いにいくとする。毎日見ているはずのTV台だから、このぐらいの茶色だろうと塗料を手にとると隣に少しトーンの違う色が目に入る。すると、どっちが近いのかさっぱりわからなくなるのだ。

たぶんTV台をしっかり見た時は一つの色が頭に入るけれど、目の前にある塗料の色と記憶の中の色を比べるというのがとてもむずかしい。できるならTV台の角のかけらを持って行くのが一番!なのだ。
もちろんデジカメで撮影していったり、色見本帳があればカラーチップで近い色を探して持っていくのも、デザイナーさんなら気軽にできるかもしれない。

同じような色探しで永遠に続くと思われるのは、マニキュアのデイリーカラーのピンクベージュ。たぶんネイルを塗り始めてから、ずーーっと運命のピンクベージュを探しているような気がする。一度コレ!というのがあったが廃盤になり、それから何年も、みつからなかった。好みのカラーをみつけて買って帰っても、爪に塗って1日過ごすとどうも違う。結局似たようなカラーのボトルが並ぶはめになる。

ボトルの見た目と爪に塗った時の発色や透明感は違うので中間色ほど難しい。essieやOPIなどネイルメーカーには何百もカラーがあるので、DICなどのカラーチャートのように近い色がたくさんある。しかも、透明感やパール感などの幅もすごいから一筋縄ではいかない。

ただ最近はちょっとコツを発見して、とうとう今の年齢の手にはちょうどいいピンクベージュをみつけることができた。その方法とは、かなり理想に近いと思われる色の候補の両隣のカラー(似ているけど少し違う)を入れて3本同時に買ってしまうこと!ちょっと男っぽい? その中にはきっと理想の色がある。お店ではボトル同士を並べて見られるので、そこで候補を集めてしまうのだ。

この方法で半透明カラーの理想色もばっちり選ぶことができた。2本無駄に?いや、結局は好きな色にほとんど近いので無駄にはならない。それよりも1本づつ何度も買って不発だった時のほうがずっと無駄だった。今思いついたけれど、一番らくなのはessieやOPIを「棚ごと買う」ことかもしれない。
叶姉妹の靴の買い方みたいだけど。ーーーーもちろん私には無理である。

◆◆◆紙と出会うまでの時間◆◆◆

大学時代の版画のリトグラフの小作先生の言葉で、どれだけ時間をかけた版も 簡単に作った版も摺る時の時間は変わらない、というのがあってこれは最近になってもなるほど と思う。

版と紙をプレス機に通して刷取る時にかかる時間が同じならばその前に版に向かって できるだけのことをしておいた方が良いという意味だと思う。数カ月かけた版も1日で作った版も 紙と出会って別れるまでの時間は同じ。CGも同じで、作ったデータを出力センターに出せば出来 上がりの時間に大差はない。
ただ、Illustratorのデータからプリントするにはベクトルのパスを展開するのに時間がかかったり エラーが起こったり予想外のトラブルもあり得る。描いた線の密度を出力機器が解釈する時に、 描いた筆跡を追うように「これは少しややこしい・・」とか「OK!ぜんぜん大丈夫!」てな ことになっているのだろう。

作ったデータをプリントする機器は非常に素直である。それがどんなに複雑であろうが、 シンプルであろうが間違っていようが消し忘れたゴミがあろうが、そこに在ったものを出す。 だから絵がどう在りたいかは自分で決めて、決着をつけておかねばならない。

絵を作る時に想うのは、これで完成と想うまでできる限りのことをしたいということ。 できたものをCDRに焼くのもあっという間だし、出力屋さんも「数時間後にはできますよ」と 言ってくれる。
結果が出るまで残酷なほどスピーディなのだ。 頭の中はさっきまで描いていた作品のことでコッテリしているのに、プリンターはガチャ ガチャっと迷いなく誠実な仕事をする。

だから、手の出せるうちに出せる手は出すというのが絵描きのできること。これは少し往生際 が悪い私の言い訳かもしれない。